生きている地球
~ 環境問題を見る視点 ~


その5 工業生産システム(2001/07/09)

 安定的に操業を続けている工業生産システムも定常系と考えることが出来ます。工業生産は、地球環境から原料資源とエネルギー資源(主に石油)を取り入れ、製品を作り出します。その過程で、原料資源に含まれる不純物などの廃物と廃熱を地球環境に廃棄します。

図4 工業生産システムの活動

 工業生産システムは、不純物を含む原料資源(高エントロピー)を加工して純度の高い製品(低エントロピー)を作ります。しかし、あらゆる活動はエントロピーを発生しますから(=エントロピー増大の法則)、工業生産システムから出力される製品と廃物・廃熱のエントロピーの総量は、取り込まれた資源よりも必ず増えます。エントロピーは物あるいは熱に付随する物理量ですから、原料資源から加工工程によって取り去ったエントロピーに加えて生産過程で新たに生じたエントロピーを、廃物あるいは廃熱としてシステムの外(=地球環境)に廃棄しなければなりません。廃物・廃熱を地球環境に廃棄することこそが工業生産システムの定常的な操業を保証しているのです。『廃棄物ゼロの工場』は理論的にあり得ません。
 工業生産に利用する原料資源・エネルギー資源は有限の地下資源です。工業生産システムからの廃熱は地球の大気水循環で宇宙空間に廃棄できますが、廃物の多くは再利用されることなく地球環境に拡散することになります(リサイクルについては後に触れます)。更に、工業製品自体がやがては劣化してすべて廃物になります。工業生産システムとは地下資源を再利用できない廃物に変えて地球環境に拡散するシステムです。
 このように、工業生産システムは地球環境の有用な資源を一方的に消費し、それを廃物・廃熱にして地球環境に捨てる閉鎖型のシステムです。有用な資源の枯渇か廃物による地球環境の汚染(=物エントロピーの蓄積)によって、やがて工業生産システムは定常的な操業が出来なくなります。工業生産システムは、生態系の場合のように物エントロピーを熱エントロピーに変換するしくみや、システムからの廃物を再び有用な資源に再生するしくみを持っていないのです。

 このように、工業生産システムは、閉鎖型のシステムなので、地球の歴史、あるいは人間の歴史に比べても極短期間でその定常性は失われ、やがて終息することになるのは当然の結果です。工業生産に基づく持続可能な人間社会は、幻想です。工業生産システムが持続可能ではないという事実そのものはそれほどたいした問題ではありません。本当の問題はそのほかにあるのです。

~ 環境問題を見る視点 ~ 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.19,2008
最終更新日:Mar.13,2009