生きている地球
~ 環境問題を見る視点 ~

その6 人間社会と環境問題の本質(2001/07/10)

 これまで、生態系と工業生産システムについて、その特徴を見てきました。

現在の人間社会は、生態系の一部を構成する動物としてのヒトと工業生産システムから構成される複合システム(以下、便宜的に工業化社会と呼ぶことにします)です。

これまで見てきたように、動物も工業生産システムも閉鎖型の特徴を持っています。

そのため、工業化社会はやがて地球の有用資源を食いつぶすか、自ら作り出す汚染によって崩壊することは避けようがありません。

工業化社会を前提とする『持続可能な社会』をいくら構想しようとしても、それは初めから無理な目標であり、徒労でしかありません。

 しかし、本来ヒトは生態系の一員として地球の定常性を損なうことなく暮らしていました。

人間社会が工業生産システムを失ったとしても、地球の定常性に基づく生態系が正常に機能する限り、工業化社会を超克した新たな社会システムを作れるので心配する必要はありません。

 しかし、問題は生態系も工業化社会も同じ地球環境という共通の場で活動していることです。

工業化社会は色々な場面で、既に生態系の物質循環の定常性に大きな悪影響を与え始めています。

環境問題の本質とは、工業化社会が生態系を有毒物質の拡散で汚染し、生態系の物質循環を破壊している問題のことです。

このまま工業化社会が肥大化を続け、その破局的な終焉を迎えたとき、後に残された地球環境・生態系は徹底的に汚染され、傷ついている可能性が高いと考えられます。

 環境問題をもう少し具体的に見ておくことにします。

まず、工業化社会は、もともと地球の生態系になかった地下資源を掘り出し、あるいは生産過程で合成した『毒物』を地球環境に撒き散らし、これらが生態系の物質循環を狂わせはじめていることです。

これは、工業化社会による物エントロピーの増加・蓄積と考えられます。

 次に、工業化社会というかつて地球上に存在したことのない、途方もない強力な分解者によって、生態系によって地球環境に蓄積された有用な生物資源が、生態系の再生能力を超えた速さで分解され、生態系の物質循環のバランスを不安定にしていることです。

例えば、熱帯雨林の喪失であり、過灌漑された農地の疲弊による砂漠化などが挙げられます。

 更に、工業的なエネルギーの集中的・大量消費による大気水循環の撹乱、都市化を初めとする地球表面状態の改変、大規模な地表水の流路変更など、生態系の定常性を阻害する要因は枚挙にいとまがありません。

~ 環境問題を見る視点 ~ 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より

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更新履歴
新規作成:Mar.19,2008
最終更新日:Mar.13,2009