問題克服の処方箋
Ⅳ 名古屋市ごみ行政への提言(結論)

1 容器包装リサイクル法からの離脱
2 税金投入リサイクルからの脱却
3 全量焼却による処分場事情の変化
4 市民負担の軽減
5 排出者責任を明確にする家庭ごみ有料化

おわりに


1 容器包装リサイクル法からの離脱

 ごみ処理は、公衆衛生の観点から当然市町村が担っていくものである。しかし、容器包装リサイクル法や家電リサイクル法などでは、リサイクルに回される資源収集・運搬、再商品化費用まで税金で賄うことになる。
 しかし、そこまで市町村が市民から徴収した税金で賄わないといけないものなのだろうか。製品のリサイクルに関しては、拡大生産者責任(EPR=Extended Producer Responsibility)(24)の手法を取り入れ、企業に任せていくような政策が必要である。
 名古屋市の財政は3年連続で赤字である。財政難であっても自治体が租税を使って対応をしないといけないのは公衆衛生(ごみの散乱を含む)である。衛生上問題のあるものだけ市町村が収集することにし、その他は資源ならば有価、廃棄物ならば料金支払いで事業者に任せることで税金による出費を削減できる。
 名古屋市がリサイクル事業をしてはいけないというのではない。リサイクルする方が税投入を少なくできるのであればしてもよい。しかし、表6で明らかなように、リサイクルで名古屋市の費用負担が増えている以上、リサイクルからの撤退が必要であろう。
 すでに3章で述べたが、名古屋市が行った容器包装リサイクル法を導入した新分別収集でびん業界の変化がみられた。ガラスびんなどは、製造者が法律の欠点を見抜き、容器包装リサイクル法を利用してリサイクル費用のかかるリターナブルびんからワンウェイびんに乗り換えている。このことは、コスト削減を必要とする製造業者にとって当然のことで、容器包装リサイクル法の欠陥のひとつである。このような欠点は、容器包装リサイクル法を忠実に導入している名古屋市だからこそ分かるものである。容器包装リサイクル法の欠点を改善するため、国に働きかけることも必要である。それが大都市で唯一容器包装リサイクル法を忠実に導入した名古屋市の役割ではないか。もし、容器包装リサイクル法の改善が認められなければ、容器包装リサイクル法による忠実な導入を改め、他都市と同様に独自の方法を築くというごみ政策の転換を計ることが必要であろう。

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2 税金投入リサイクルからの脱却

 地方自治体がリサイクル活動を始めたのは、廃棄物処分場の不足であった。自治体は、補助金を使うことによって、リサイクルを促進しようとした。
 それは考え違いであった。リサイクルが失敗した原因はリサイクル商品の過剰供給だったのだから、自治体が補助金を出してリサイクルすることは、過剰供給をさらに拡大するだけで、ますますリサイクルの失敗を広げることになる(25)。自治体のリサイクル政策によって痛手を負ったのが再生業者である。前でも述べたが、古着などは回収量が増え対応に苦慮している。こういう状況下での唯一の方策は、自治体の焼却工場で不能品を20~30%焼却する以外ないといわれている(26)。
 名古屋市は、リサイクルに取り組む業者、市民団体に補助金を出している。資源収集に参加する市民団体は、団体運営資金確保のため市の補助金を当てにしているので、資源を高価に買い取ってもらうための努力などせず、市民が出しているものを集めてくるだけである。資源回収は、不純物が混入していると問屋での引取価格が安価なので本来なら回収しないのだが、業者にも市から補助金がでているので回収している。
 同じ愛知県の碧南市では商品価値のあるものにするために、資源も分別して品質のよいものだけを回収している(27)。名古屋市もこの方法を見習うべきである。
 過剰供給の改善策として、需要を喚起する必要がある。リサイクル品の需要を拡大させるには、その品質を今以上に向上させていなかくてはいけない。回収商品の品質を高めていくには、購入価格の違いにより商品価値のあるものを見分けて回収するという方法を取るべきである。この方法は元来、再生業者自ら行ってきたが、自治体の関与やリサイクルブームによって機能不全に陥っている。この機能を回復させることで、再生業者などがスムーズに動けるようになり、資源がうまく循環することにも繋がるのではないか。
 古新聞の回収は、回収業者にすべてを任せる。そのようにすれば、広告の混ざらない古新聞だけが集められるようになる。少なくとも、他都市で行われているように新聞販売店が集めることの責任を持つようにしてもよい。消費者にリサイクルセンターまで運ばせる現在の方式では、消費者が古新聞を丸めて可燃ごみの中へ混入させ、名古屋市に引き取らせることになるだけである。
 可燃物資源の供給過剰に対処するには、これを可燃ごみとして焼却処分する必要がある。これにより発電が可能であり、さらにごみ焼却のために都市ガスを使用する必要がなくなる。

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3 全量焼却による処分場事情の変化

 名古屋市の行っている一般廃棄物の徹底した焼却処理によって、処分場に流れるごみを半減させることに成功した。しかし、そのことは処分場問題を先のばししたことを意味しているに過ぎない。現実の問題として、藤前干潟の埋め立て断念に伴う小規模ごみ処分場の「第一処分場(仮称)」について一応11万tの埋め立て地を確保できたというが、いずれ満杯になる。愛岐処分場の増量計画が認められて解決したように見えるが、ごみ問題の本質は残ったままなのである。そして、この処分場に投入するごみの減量が、古紙・雑誌・ダンボールと空き缶・空きびんの分別だけによっているのであれば、生ごみ、腐り易いごみ(または水分を含むごみ)は紙くずと別にした方がよく、ガラス瓶と可燃ごみと不燃ごみの4種類だけ分別する方法を採用しても達成できる。
 また、名古屋市は2010年度計画で現在、埋め立てられている不燃ごみを焼却および溶融し、資源化する方針である。2000年8月から名古屋市民が苦労して容器包装リサイクル法による多品目分別してきたことが無駄であったことになるので、16種類のごみ分別を市民に強いるべきではない。
 すでに触れたが、名古屋市は、分別収集が徹底され、焼却されるごみ量も減少しているのにもかかわらず、焼却炉の建設を進めている。これ以上新設すると、既存のごみ焼却場が運転停止状態になるのは明らかである。また、新設する焼却工場には、溶融炉が併設されており、そこで生成された溶融スラグが、アスファルトなどの建設資材に使われる。しかし現在、アスファルトもリサイクルされるようになっているので需要はないのではないか。余剰対策には、生ごみリサイクルでも述べたように、溶融固化した物を海に運んで陸地を広げていくのも一つの方法である(28)。
 溶融炉導入によって2000年度実績の埋立量15万tから2万t(推定値)へと削減できると名古屋市は見込んでいる。そして、この技術によって処分場建設による規模の縮小も期待できることになる。
 焼却炉などの計画は、数年前の状況を踏まえて作られている。名古屋市は、もっと柔軟に現在置かれている状況を把握して各種対策に取り組むべきである。

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4 市民負担の軽減

 自治体が、真剣にごみ分別に取り組まないといけなくなるのは、処分場の枯渇問題、不法投棄問題が関係している。愛岐処分場枯渇問題を抱えていた名古屋市も対策を取らざるを得なかったし、衝撃を受けた市民も自ずとごみへの意識を高めていく結果を生んだ。
 名古屋市も他の自治体と同様、カラスなどによる生ごみ散乱に悩まされている。現在、多くの自治体で認められていないが、市民負担・公衆衛生の面などからみても優れているディスポーザーのシステム式が将来、ごみ減量施策の中心的な役割を果たしていくのではないだろうか。
 市は、補助金を利用した対策に固執し過ぎている。協力するのは市民なので、どの方法を利用すれば市民負担と財政支出を少なくできるかを最優先で考えるべきである。

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5 排出者責任を明確にする家庭ごみ有料化

 ごみ対策について、市民の意識が市側の危機感との乖離がみられる。これを改善するには、名古屋市もごみ有料化による排出者責任という市民の環境意識の向上などが重要である。その際に環境やごみに関する十分な情報を住民に提供しかつ議論を巻き起こすこと、有料実施後の減量効果や徴収料金の使用使途を住民に公開することなどが大切である(29)。
 現状においてごみ処理に料金を課す市町村は少数派である。ごみ処理は税金を用いて行われるのがごく当たり前のことと受け止められており、なかなか料金を徴収することに市民の合意が得らにくい(30)状況にある。
 ごみ減量成功の「カギ」は市民が握っている。ごみ問題を解決するには、企業側の生産者責任、市民による排出者責任を双方が果たすことが必要である。最近、リサイクル意識の高い人が増えてきている(これは、自治体の成果なのかもしれない)。この人達とそうでない人達のごみ減量意識の差が大きくなればなるほど不満も出てくるだろう。そこで、ごみ減量に積極的に取り組む人にインセンティヴを与えるためにもごみ有料化を導入し、これまで住民負担だったものから排出者負担に移行する必要がある。

おわりに

 今回、名古屋市におけるごみ行政について調査した内容を中心に述べた。新分別収集を開始して間もないこともあり、問題が多い。特に、市民の負担、補助金により、資源の過剰供給を招いたことが挙げられる。そこで、本来の市の役目である公衆衛生のみに立ち返り、資源収集は、事業者に任せるべきであろう。その方法は、試行錯誤で探していくことになるだろう。

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(1)自治体の分別収集の実施については、1999年7月当初計画の策定時点で、紙製容器については803市町村が予定していた。しかし、完全施行を前に、当初計画より691も少ない112市町村に減少。プラスチック製容器も、1348市町村が493市町村に減った(2000年3月27日付読売新聞)。 2001年3月末の時点では、紙製容器包装は343市町村、プラスチック製容器包装は881市町村となっている。
 市町村が分別収集の実施に消極的なのは、商品によって素材が異なり分別しにくいこと、容器包装リサイクル法の対象物かどうか見分けが難しいことなどがあげられる。ちなみに、大都市でこの法律を導入したのは、名古屋市だけである。
(2)廃棄物学会編『改訂ごみ読本』中央法規出版,1998年,47ページ。
(3)田中勝『廃棄物学概論』社団法人日本環境測定分析協会,1998年,14ページ。
(4)中部リサイクル運動市民の会「環境雑誌イー’ズ」2001年,Vol.220,冬号,7ページ。
(5)名古屋市環境局「事業概要」,平成13年度,70ページ。
(6)(5)と同じ
(7)名古屋市環境局「事業概要」,平成13年度,71ページ。数値は、名古屋市環境局平成12年度資源回収関係資料より
(8)名古屋市環境局「ごみの達人心得帳」16-17ページ。
(9)名古屋市環境局「事業概要」,平成13年度,74ページ。
(10) 名古屋市環境局「名古屋市第2次一般廃棄物処理基本計画 推進プラン21」,9ページ。
(11) 名古屋市環境局「事業概要」,平成13年度,74ページ。
(12) (15)と同じ
(13) 名古屋市環境局「名古屋市第2次一般廃棄物処理基本計画 推進プラン21」,平成12年11月,8ページ。
(14) この方式と異った政策をとるのが愛知県碧南市である。碧南市では、古紙は新聞とちらしを分けて出すようにしている。そのことにより、回収業者は市場に則った取引ができている。即ち、回収した古紙が商品価値のあるものの取引だと証明している。品質の良いものなので引取り業者は、碧南市から排出される古紙をあてにしているからいつでも碧南市分の古紙確保分が空けてある状態だという。
(15) 赤坂茂男 2000年11月30日付週刊ペーパー&ウエス
(16) 中部リサイクル運動市民の会「環境総合雑誌イー’ズ」2001年,第15号,春号,47ページ。
(17) 細田衛士『グッズとバッズの経済学』東洋経済新報社,1999年,90ページ。
  この問題を回避するため、2001年5月容器包装リサイクル法の基本方針と再商品化計画を改定、ペットボトルのケミカル・リサイクルが認定された。これによりボトルtoボトルが実現するものであると注目されている。
(18) 名古屋市環境局「名古屋ごみレポート:逆風を、追い風に変えた名古屋市民」,平成13年12月,16ページ。
(19) 大平惇「よくわかる容器包装リサイクル法識別表示制度スタート分別のわかりにくさを解消」 日経エコロジー,日経BP社,2001年6月号,58―60ページ。
(20) 生ごみ用の袋として、各世帯に生分解性プラスチックを配布している。ビニール袋は自然界で分解できないため、一度畑に入ればいつまでも残ってしまうが、生分解性プラスチックでは収集後破袋し、そのまま調整装置にかけることが出来、発酵箱の中で分解されてしまうという利点がある。
(21) 朝倉「RDFと生ごみの堆肥化でごみを資源として有効利用-群馬県板倉町「板倉町資源化センター」-月刊廃棄物,日報社,2001年2月号,100-101ページ。
(22) この方式は、流入する雨水が多くなると汚水を河川に流す構造である。
(23) ディスポーザーで粉砕した後、敷地内に設けた小型処理槽で分解、浄化したうえで下水道管に流す方式である。
(24) EPRとは、物理的及びまたは金銭的に、製品に対する生産者の責任を製品のライフサイクルにおける消費後の段階まで拡大させるという環境政策アプローチである。これは、①責任を(物理的及びまたは経済的に、完全にまたは部分的に)地方自治体から上流である生産者にシフトさせる②生産者に対し、製品の設計に環境上の配慮を盛り込むインセンティヴを与えることである。
 EPRの主な機能は、廃棄物管理に係る費用及びまたは物理的責任を、地方自治体及び一般納税者から生産者に移行することである。これにより処理及び処分の環境コストは、製品コストに組み込まれるという形で消費者が負担する。
(25) 槌田敦「持続可能性の条件」『名城商学』第48巻第4号,1999年,84ページ。
(26) 赤坂茂男2000年12月7日付ペーパー&ウェス
(27) 1969年4月からダストボックス方式でのごみ収集をしていた。しかし、江南市と同様にダストボックスの中に様々なごみが混入したり、市外からの越境ごみが増えたりした。1994年10月から西端地区をモデル地区(2000世帯を対象)として分別収集を開始した。(この分別収集は、容器包装リサイクル法が制定される以前に市がこの法律をまねて独自の方法で行ったものである)。1996年4月ダストボックスを撤去して、市全域で分別収集を開始した。碧南市は、名古屋市と違ってストックヤードと分別工場を持っていない。その代わりに、以前からあったリサイクル回収業者・リサイクルルートを利用している。
 市は、ごみと地域のコミュニティー(人と人との関わり)を重視していた。幸い町内会が存在したこともあって、リサイクルステーション当番制で町内会の方々に立ってもらって分別の仕方を指導してもらうようにした。そのことにより、近所付き合いから周りの目を気にするようになり、市民のごみ分別への意気込みも変化していったという。
 なぜ、名古屋市のように容リ法を導入せず、独自の方法で進めているかというと、同じ素材なのに法律の適用物とそうでないものがある。それでは、市民が混乱してしまうだけである。市としては、材質別に分ければいいのではないかという考えをもっているからである。
(28) 槌田敦「持続可能性の条件」『名城商学』第48巻第4号,100ページ。
(29) 吉田文和『廃棄物と汚染の政治経済学』岩波書店,1998年,38-39ページ。
(30) 細田衛士『グッズとバッズの経済学』東洋経済新報社,1999年,31-32ページ。



 
問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.6.2009
最終更新日:Mar.12.2009