問題克服の処方箋
Ⅲ 名古屋市のごみ行政の問題点

1 ごみ減量成功は錯覚
2 リサイクル費用負担の公平性
3 市民の分別負担
4 破砕・焼却施設
5 生ごみリサイクル
6 レジ袋などごみ袋


 前章で述べたように、名古屋市は容器包装リサイクル法を導入してごみ減量に成功した。しかし、そこには色々な問題がある。この章では、容器包装リサイクル法導入で発生した問題および今後検討されている施策の問題点について考察していく。

1 ごみ減量成功は錯覚

 2章で述べた通り、名古屋市は導入義務を負っていない容器包装リサイクル法を導入したことでごみ減量に成功した。確かにごみの量は、1998年度をピークに減っている。これについて、市側は、「市民がスーパーなどの量販店での買い物で、ごみとなるような物は買わない。トレイなどは置いてくる」など市民の意識が高まったからだとみている。しかし、このようなものは重量比で考えるとほんのわずかである。1999年度における資源回収量(106.2千t)(13)の中で重量が多いのは、古紙・雑誌・ダンボール(67.5千t)、空きびん・空き缶類(34.1千t)である。新分別によって重い古紙、びん類は資源となり、名古屋市の扱うごみとして処理されなくなったのがごみ減量の一番の理由である。
 名古屋市の扱うごみとして処理されなくなった古紙、古着、ペットボトル、容器包装類、ガラスびんの状況は以下のとおりである。

(1)古紙

 古紙について、古紙の回収方法として子供会・PTAが回収する集団回収と名古屋方式と
いわれる方式とで回収している。
 名古屋市は、古紙回収に関与していないことになっている。しかし、多くの自治体と同様に集団資源回収実施団体への事業協力金(例えば自主回収へ4億円)を支払っているので関与していないとは言えない。
 名古屋市が集団回収に補助金をだすようになったきっかけは、古紙が集まりすぎて従来、商品価値があるものとして引き取ってもらえたものが、お金を払わないと引き取ってもらえないようになってしまったからである。そこで、団体に補助金を出しているのは、廉価な買取価格に影響されることなく回収量を維持するようにしたからである。
 古紙は、再生技術が進歩して分別せず回収するのが一般的になりつつある(14)。名古屋市でもこの方式が採用されているが、商品価値のない不純物搬入が増え、これを取り除くために製紙工場では多くの薬品が使用され、廃棄物が大量に発生することになっている。

(2)古着

 2章で述べたが、古着類などは予想以上集まりすぎで処理できなくなっている。過剰収集により取引価格が下落し、元々市場経済で有価物として取引されていたものの大半が無価物となっている。
 「古繊維」を100%リサイクルできない理由は、新しい繊維の「紡績メーカー」や「アパレルメーカー」が、使用後のリサイクルについて責任を負っていないからである。そして、繊維素材がまちまちで一定化されていないため再生原料としての「純度」が低くなり、同質性の繊維に還元するのが難しいのである(15)。
 ほんの1年前までは、商品価値のないごみは回収された古着の1割であった。しかし現在は、古着の2~4割に増加している。これらは回収業者の産業廃棄物としての処理されることになるので、その費用が、古着業界の経営をさらに悪化させている(16)。
 繊維のリサイクルについて、古繊維の分離分解技術はある。しかし、分離分解したところでウールやコットンなどは市場競争力がまったくない。また、ほとんどの繊維は輸入しているため、川上産業にもっていくことはできない。つまり、日本では古繊維を再生資源として使うことはできないのである。

(3)ペットボトル

 2000年度は計画の2倍以上集まり、選別・圧縮作業が追いつかず新日鉄の倉庫を借りるまでになった。市は、倉庫使用料、管理人の人件費、燃料費など、予定外の出費は1ヵ月に数百万円にもなった(2000年9月28日付朝日新聞夕刊)。前でも述べたが、2001年度は5000tに達すると予想されている。
 容器包装リサイクル法において、再商品化義務量は、市町村などの積み上げて計算される「分別収集見込み量」と、全国の再資源化施設の能力によって決まる「再商品化見込み量」のどちらか小さいほうで決まる。再商品化見込み量が分別収集見込み量を下回れば、再商品化されずごみとして処分されるペットボトルが大量に発生することとなる(17)。

(4)容器包装類

 市民が必死で分別した紙製容器包装は、選別し、加工され、紙製品と固形燃料になっている。プラスチック製容器包装は、選別し、破砕・洗浄され、プラスチック製品(車止めなど)とコークス炉でマテリアル・リサイクル(油化、ガス化、固形化)され、プラスチック原料、発電用燃料、コークス代替剤となっている(18)。このようにプラスチック製容器包装は、一応リサイクルされることになっているが、リサイクル品の需要がない。したがって、現状では市が製品を買い施設で使う程度である。また、紙製容器包装は、どこまでリサイクルされているか定かではない。市民意識では、すべての紙がリサイクルされていると認識されているはずである。しかし、資源として集めた紙が固形燃料となり燃やされているとは想像していないであろう。結局、燃やすのであれば、市民に分別回収を要請する必要はないのである。

(5)ガラスびん

 ガラスびんは,ガラスカレットとして資源扱いされている。異物の除去など中間処理を経て、最終的には民間のガラスびん製造業者により資源化されている。ところで、愛知県内にある大手企業は2000年、リターナブルびんの引き取りをやめた。1本約15円で引き取っていたが、主力商品の容器をワンウェイびんに変えた。事業者は、1本につき約50銭の負担金を払うだけで使い捨て容器を排出できるからである(2000年9月28日付朝日新聞 名古屋版)。リターナブルびんは、ワンウェイびんより環境負荷が小さい事は周知の事実である。しかし、コスト削減・営利を目的とする製造業者にとっては、費用の少ない方に流れるのは当然であり、容器包装リサイクル法の欠陥のひとつである。

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2 リサイクル費用負担の公平性

 市町村と事業者の負担の不公平性がよくわかるのがペットボトルである。容器包装リサイクル法では、回収などの処理費の負担が自治体に重く、ボトルメーカーや飲料メーカーには軽くしている。
 リサイクル活動が活発になり始めた今、この不公平性の税金負担を続けていくと市の財政は逼迫し、市としての機能が働かなくなってしまう。こういった事態を避けるためにも、今ある不公平さを改善し、市は、本来の公衆衛生対策に税金を投入し、事業者は、経費で資源回収活動を進めていくことが必要である。

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3 市民の分別負担

 容器包装リサイクル法に則り消費者がプラスチック製容器包装か不燃ごみかを区別するのが容易ではない。洗ったら資源、汚れたままなら不燃ごみとは理解しにくい。また、同じ素材であるのに、包装か否かなどで細かく分別が強要され、混乱している。分別の困難さ、分かりにくさから市民は監視の厳しくない不燃ごみの中に混入させたり、不法投棄(名古屋市周辺の市町村へも含む)したりしている。例えば、隣接する春日井市や大治町へ越境不法投棄が問題となっている(2000年8月26日付中日新聞)。
 消費者の分別に対する不満に応えるために2001年4月から識別表示制度がスタートした。この制度が規定されている法律は容器包装リサイクル法でなく「資源有効利用促進法」(改正リサイクル法)であった。表示が義務付けられているのは、原則として容器包装リサイクル法の対象容器包装であるが、①事業系の容器包装廃棄物②段ボール製容器包装③アルミが使用されていない飲料・酒類用紙製容器④以前より資源化を行っているPETボトルなどは容器包装リサイクル法の対象であっても表示を免除されている。また、プラスチックの材質表示は、義務付けられていない(19)。
 事業系一般廃棄物は、家庭系の一般廃棄物とは違い、容器包装リサイクル法の対象となっていないので分別が不徹底のままである。そして、地区によっては、当初の厳しい分別は崩れ、有料シールを貼っていれば可燃ごみ、不燃ごみの分別をせずとも回収していく。さらに、分別されているごみも、事業系と家庭系をまとめて一台のパッカー車に積んでいくとNPO団体の会合で指摘されている。すでに述べたように、名古屋市は不燃ごみに含まれる可燃物を機械で分別し焼却しているから、そもそも庶民による分別はする必要がないのである。
 同市は、古新聞の回収について今まで通り学区回収、ステーション回収に重点を置く方針を立てているが、他都市でなされているように、生産者である新聞社に各戸回収させるなどの対策をとっていく必要がある。各戸収集することによって、回収場所まで運んでいた市民(特に老人)の負担を軽減することができる。

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4 破砕・焼却施設

 2章で述べた通り、新分別収集でカロリーの高いごみが減り、可燃ごみが焼却場で燃えにくくなる事態に陥った。
 南陽工場では、大江破砕工場から粗大ごみを搬入しているため、カロリー調整をしなくても十分稼動できている。
 30年前に完成した最も古い鳴海工場は、燃焼温度を低く設定された炉のため、逆に燃やしやすい状況に好転した。
 しかし、名古屋市は今後新たに焼却工場を3基建設予定して、カロリー上最もふさわしい鳴海工場は、新工場完成に合わせて操業を停止する予定になっている。
 新設する工場には、灰溶融、ガス化溶融炉を導入することになっている。これまで破砕され埋め立てられていたプラスチック類も掘り起こし、焼却することになっていて、埋立量が削減できる。これにより市側は、愛岐処分場への埋立量が現在毎年12万tなのが、2010年度には2万tまで減らせると見込んでいる。焼却灰の溶融処理に伴なって生成される溶融スラグは、道路工事での路盤材やアスファルト合材に利用する。利用先が決まるまで処分場に一時保管するとしているが、アスファルトはリサイクルされるようになっているので新しい需要を見込むのは難しい。NPO団体は、アスファルトの需要を喚起するために、名古屋市が公共事業を増やすのではないかと危惧している。

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5 生ごみリサイクル

 名古屋市は生ごみリサイクルについて、家庭用生ごみ処理機、コンポスト容器、生ごみ堆肥化促進剤専用容器などの購入を助成し、また家庭から出る生ごみは地域での生ごみ堆肥化の実験(20)を鳴海町にある焼却場の敷地内で行い、千種区、道徳学区の200世帯(千種区150世帯、道徳学区50世帯)をモデル地区として進めている。しかし、生ごみリサイクルにはいくつかの問題点がある。生ごみ処理機には、微生物分解型と乾燥型がある。いずれの場合も電気代や有効微生物資材などランニングコストがかかる。
 害虫、異臭の問題もある。群馬県板倉町では、安全な堆肥を作るということで殺虫剤を使わなかったため大量のハエが発生した。防虫ネットを張ることによってハエの発生がなくなった。悪臭は、施設内の気圧を下げて、空気を吸い上げ、活性炭のフィルターを通して解決している(21)。
 また、名古屋市には農地はほとんどなく農家など堆肥の受入先がない状態であり、地域循環できていない。需要創出するため、民間と提携し燃料電池の原料などへの転用を計画している(2002年1月24日付中日新聞)。
 ところで、日本の家庭用生ごみの肥料化が無理なのは、肥料分が少ないからである。また、生ごみリサイクルが堆肥としての活用が伸びないのは、施行する農家と排出する側の相互理解が乏しいからだといわれている。
 かつてリービヒが主張したように、野生動物の餌にして生態系に返す方法もあるが、名古屋市では不可能であるので、生ごみは空き地を利用して鶏を飼いその餌とし、残渣は焼却にまわすことが可能であろう。
 また、下水道を使った処理の方法もある。家庭から排出される生ごみをディスポーザー(生ごみ処理粉砕機)に入れ、生ごみを粉砕し、下水に流すものである。最大の利点は家庭から排出される生ごみが減ることである。他に、市民のごみ出し負担の軽減、衛生的であり、市収集によるごみ減量効果が大きいこと(2001年18月7日付日本経済新聞)があげられる。
 しかし、下水処理の観点からの問題はある。一つ目は、ディスポーザー使用で起こる下水道管の詰まりである。二つ目は、従来の糞尿に生ごみが加わることで、下水処理に負担をかけること。三つ目は、大都市の下水管は、「合流式」(22)を採用しているため、家庭から一斉に生ごみが流れ込めば、河川や海の富栄養化が進むといわれていること(2001年10月7日付日本経済新聞)などがあげられる。けれども、下水の主体である糞尿に比べ、生ごみの量は問題になる筈がないという考え方もある。
 マンションなどで最近増えているのは、システム式(23)である。この方式は、日本下水道協会が排水基準などを定めており、設置を奨励している自治体も多い。松下電器産業も「処理槽を通した汚水は下水管に負担をかけないし、水質も悪化しない。今後はこの方式が普及するだろう」とみている。

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6 レジ袋などごみ袋

 名古屋市のスーパーで最初にレジ袋の指定袋を採用した店舗では、導入当初普段の売上の10%伸びたという反響があった。市民が有料の袋より無料でくれる方を好むこと。また、店舗の売上を左右するものになっているレジ袋を市が対策に乗り込むには難しい状況となっている。
 現に、名古屋市が商業者とのレジ袋対策の検討会において、商業者からレジ袋に税金を掛けるには絶対反対であるとの意見が出た。市は、レジ袋税を今後検討内容に盛り込まず、ジャスコ、ユニーなど対策を講じている業者を尊重し、他の政策で対応していくとしている。
 レジ袋税導入による商業者の反対は、東京都杉並区でも見受けられる。商業者の意見として、区内の店舗だけにレジ袋税を掛けられると税を徴収されない他の地区へ客を取られ、売上が減少すると訴える。
 この施策には、商業者の他に消費者も関連してくる問題なので、両者の意見を聞くこと、レジ袋の対策をしている愛知県豊田市、東京都杉並区の事例を参考にし、それから判断しても遅くはない。

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問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.6.2009
最終更新日:Mar.12.2009