問題克服の処方箋
§付録:持続可能性の条件

§1 環境問題における『常識』を再検討する

1-1 炭酸ガス温暖化脅威説について
1-2 やはり寒冷化が心配
1-3 オゾンホールのフロン原因説について
1-4 リサイクルでは廃棄物問題は解決しない
1-5 地方自治体のリサイクル行政は失敗の上塗り
1-6 儲からないリサイクルはしてはならない

1-1 炭酸ガス温暖化脅威説について

 大気中の炭酸ガス濃度と気温は確かに関係する。たとえば,南極ボストーク基地の氷の分析から過去22万年にわたって大気中の炭酸ガス濃度と気温は同じような挙動を示している。これらの事実から「地球は人間の発生した炭酸ガスで温暖化する」と多くの人々は信じてしまった。
  しかし,同時にふたつの現象が生じている時,どちらが原因でどちらが結果かを考える必要がある。または,別に原因があって,両者ともにその結果かも知れないのである。
 根本順吉氏の本(1)にも書かれているが,大気中の炭酸ガス濃度の長期観測者で知られるハワイ・マウナロア観測所のC.D.Keelingらの報告(2,3)によれば,気温が上がった半年から1年後,またエルニーニョ発生の1年後に炭酸ガスが増えている。
 そして,平均気温の変化は太陽黒点の数の変化と対応している(2)。また,過去350年にわたって北極圏の気温の変化は太陽光の照射量に関係し,大気中の炭酸ガス濃度はそれに遅れて続くことも示されている(4)。さらに,世界各地からの報告によれば,ピナツポ火山の噴火後の2年間,炭酸ガス濃度は増えていない。炭酸ガス温暖化説によれば大気中に溜まるはずの人間の発生した炭酸ガスはこの間どこかヘ完全に消えてしまったことになる。
 人間の発生した炭酸ガスが大気中に溜まるとした根拠は,海洋では表層水と深海水の交換がほとんどなく,海洋は大気中の炭酸ガスをほとんど吸収しないと考えられたからである。しかし,表層水には深海水の湧昇によって炭酸ガスと有機物が大量に供給されている。そしてこの有機物は表層水の酸素で酸化されるので,炭酸ガスはさらに追加されている。これは海洋生態系の原料となるが,結局は海洋動物の糞という形で,有機物はふたたび深海に沈降していく。大気と深海水の間で炭酸ガスの交換が少ないとすることは誤っている。
 したがって,これらの事実から太陽活動の変化と地球受光能の変化が気温の変化を引き起こし,気温(海面温度)変化が大気中の炭酸ガス濃度の変化を生じさせていることが分かる(5)。炭酸ガスによる地球温暖化を主張する自然科学者は, これらの事実を無視しているとしか言いようがない。
 ところで,炭酸ガスは温暖化ガスである。地表から出る遠赤外線を吸収して地表の放射冷却を防ぐ二次効果は無視できない。しかし,地表を暖めている温暖化ガスの筆頭が水蒸気であることを忘れてはいけない。
 熱帯や温帯の夏には大気中の水蒸気濃度が高く,炭酸ガスが多少増えたところでその影響はほとんどない。影響の出るのは,寒帯や温帯の冬である。温度が低いと大気中に水蒸気がほとんどないから放射冷却で寒くなる。ここで炭酸ガスが増えると暖かくなる。このような温暖化では夏の温度は変わらず,冬は暖かくなるのであって,人間にとってけっして困ったことではない。
 そして,炭酸ガスで温暖化するとしても平均気温は2度上昇する程度という。それは古代文明の時代の温度になることで,その温度は人類がすでに経験していて,別に大騒ぎするほどのことではない。むしろ,これまでの気象学では,この温度の高い時期をヒプシサーマル(気候最適期)としていたのである。
 温暖化で海水が増えるというのも正しくない。南極の周辺は溶けるかもしれないが,温暖化で水蒸気も増え,それが南極に流れこんで氷になることを考えると海水は逆に減ることになる。また,海水の熱膨張とかいうものも影響を受けるのは表層水だけだから,その膨張は5センチ程度にすぎない。

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1-2 やはり寒冷化が心配

 さらに,陸地の光合成は15度以上でなされる。そして地表の平均気温は15度である。つまり陸地の約半分で光合成ができない。したがって,寒冷化ならば光合成のできない土地がさらに増えて,食料が得られなくなって困るが,炭酸ガス濃度の上昇によるこの温暖化では食料の得られる土地が増えるのであって,決して悪いことではない。
  1950年代,暖冬続きで地球の温暖化が問題になった。その頃南極の氷が溶けて海面が上昇し,都会が水没する恐れがあると騒がれた。ところが1970年代に入り,気温が上がらず,地球寒冷化が問題となった。実は,1940年以降,気温が徐々に下がっていることが確かめられた。そこで気象学者の多くは 1980年ごろから,寒冬・冷夏がふえ,小氷河期の気候が近づくと予想した(6)。しかし,これは当たらなかった。
 ところで,過去2万年の花粉,樹相,氷河からまとめた気温の変化(連邦研究協議会記録,1975)(7)によれば,7千年前に高温期があり,それ以後長期低下傾向にある。とくに注意すべきは,その間に3回,約2千年の間隔で,約2度の温度降下をもたらす小氷期がある。
 前回の最高気温期は2千年前であるから,現在が最高気温期であり,間もなく気温が下がっていくとした1970年頃の気象学者の予想は無視できない。したがって,寒冷化こそ注意しなければならないのであって,『炭酸ガス温暖化脅威説』は世紀の暴論ということになる。
 それだけでなく,特定の自然科学者の学説を信ずるのならば科学という名の宗教である。社会科学者は,その学説が合理的であるかどうかを自分で判断し,そのうえで環境問題での社会科学的対策を論ずる必要がある。信じあうことにより成り立つ学問などは存在しえないからである。

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1-3 オゾンホールのフロン原因説について

  『オゾンホールのフロン原因説』も正しくない。南極の春先,成層圏のオゾン濃度が少なくなるというのは事実である。しかし,フロンが原因でオゾンが減ったとするのは間違っている(5)。
 オゾンホールの発生する春先の南極では太陽光は水平に入射する。そのため太陽光が成層圏大気を通過する長さは垂直入射の10倍以上となり,紫外線は大気中の微粒子によって宇宙へ向けてほぼ完全に散乱され,南極の低層の成層圏にあるオゾン層にはほとんど到達できない。(宇宙から見ると地球は青く,また地表で夕日が赤く見えるのは,太陽光の中の青い光が大気中の微粒子により散乱されるからである。紫外線は青い光よりも波長がさらに短いから,もっと強く散乱される)。
 フロンがオゾンを破壊するという反応には紫外線が不可欠である。紫外線の少ない南極の早春,しかもマイナス90度という低温で,比較的安定な分子のオゾンが化学反応で消滅するなどと考えるのは非常識であろう。
 フロンが南極のオゾン層を破壊するという説の根拠は,南極の高層成層圏で強い西風が吹き,その極渦がエアカーテンになって南極の成層圏大気を隔離している。オゾンの出入りがないのにオゾンが減るのだからここでオゾンが破壊されていなければならない,と。
 この理屈は,西風の原因を考えていない。地球の自転により地球大地は西から東へ動いている。そのため,大気も西から東へ動いている。赤道の大気はもっとも早く動き,極付近の大気はほとんど動かない。そこで大気が赤道から極の方へ流れると,大気の方が大地よりも早く動くことになり,大地から見ると西風となる。(極から赤道の方へ大気が流れると東風となる)。南極の冬,その周辺で高層成層圏の大気が西風であるということは,高層の成層圏大気が赤道から南極へ向けて流れていることの証拠であって,エアカーテンなどという推理はとんでもない空想であった。
 高層成層園大気が夏極から赤道を越えて冬極へ流れるのは,夏極では大気中のO2やO3により太陽光の紫外線の吸収で加熱され,冬極では大気中のH2OやCO2やO3から出る遠赤外線の宇宙への放射で冷却されるからである。
 また,南極で, この冷却がさらに進み極成層圏雲ができると,この極成層圏雲は大気よりも重いから落下する。この時,周りの高層成層圏大気を巻き込んで,引きずり降ろすことになる。
 オゾン層のあるのは2~3万メートル程度の低層成層圏であって,5万メートルの高層成層圏にはオゾンはほとんどないから,高層成層圏大気の供給される南極でオゾンが少なくなるのは当然である。犯人とされるフロンガスは濡れ衣を着せられたことになる。(5)
 このように,最近の自然科学者による環境論議は学問を見失っている。社会科学者はこのような自然科学者の意見を単に多数だからという理由で信じてはいけない。『炭酸ガス温暖化脅威説』や『オゾンホールのフロン原因説』をいう自然科学者が多数なのは,政治や行政と繋がって研究費が得やすく,また発表の場がたくさんあるからに過ぎないのである。

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1-4 リサイクルでは廃棄物問題は解決しない

 社会科学の分野でも学問を見失っているという点では同様である。経済学者の提言によりごみゼロ社会を目指して多くの人々が『リサイクル』に取り組んでいる。しかし,実際には,このリサイクルは大失敗であった(8,9)。
 それにもかかわらず,この失敗の原因を考えることなく,今でも『リサイクル運動』や『リサイクル行政』が続けられている。やはり経済学者も学問を見失い,失敗の原因を考えることなく,この運動や行政とつながり,「早くしないと間に合わない」とあせって行動するのを黙認しているのである。
 リサイクルの失敗は,リサイクル商品の過剰供給が原因である。経済学では,昔,資源を希少性で定義していた。資源の供給は需要を超えてはいけないのである。需要を超えて供給される物品を自由財と言うが,無料の自由財では収入を得ることができないから,これを運ぶ商人がいなくなって,資源の供給が混乱することになる。
 たとえば,古紙や古鉄を考えてみる。リサイクル運動のもっとも盛んだった1990年以後,これらのリサイクル商品は過剰に供給され,価格が下がって回収業者の経営は成り立たなくなり,次々と廃業していった。その結果,以前は台所で取引されたこれらの商品は,今では廃棄物処分場ヘ直送されるか,不法投棄されることになった。
 リサイクルでは経済学で教えていた資源の定義が無視されたのだが,リサイクル運動の失敗を論ずる経済学者はいなかった。むしろ,リサイクル運動をもっと積極的におこなうため,リサイクル商品に補助金を出して供給すれば解決するかのように言う経済学者ばかりだった。商取引では商品と金銭は逆向きに動く。けれども,リサイクルの場合には,商品に金銭をつけて同じ向きに動かしてもよいと経済学者は言い,これに逆有償という名前さえつけた。
 しかし,実は,物品と同じ向きに動く金銭は手数料であって,その物品は商品ではなく,廃棄物である。炭酸ガス温暖化脅威説やオゾンホールのフロン原因説の自然科学者と同様,経済学者も学問を見失ったとしか言いようがない。

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1-5 地方自治体のリサイクル行政は失敗の上塗り

 地方自治体がリサイクル活動を始めたのは,廃棄物処分場の不足であった。地方自治体は,補助金を出してでもリサイクルすれば処分場に投棄する廃棄物の量は減る。また処分場の建設に要する費用が廃棄物1トンあたり5万円ほどになるが,リサイクルに必要な費用は回収業者に払う補助金を含めトンあたり5千円から1 万円程度で済む。そして困っている回収業者を補助金で助けることができる,と主張した。つまり,リサイクルは一石三鳥の妙案だった。
 しかし,それは考え違いだった。リサイクルが失敗した原因はリサイクル商品の過剰供給だったのだから,自治体が補助金を出してリサイクルすることは,過剰供給をさらに拡大するだけで,ますますリサイクルの失敗を広げることになる(8,9)。
 その失敗は次のような形で現れた。自治体には税収入の豊かなところと貧しいところがある。豊かな自治体ではこのようなリサイクル行政ができて,処分場へ捨てる廃棄物は確かに少なくなる。しかし,貧しい自治体ではそういう訳にはいかない。
 以前は貧しい自治体でも,優良リサイクル商品には回収業者が来て買ってくれた。 しかし,リサイクルによって需要が増えたわけではないので,廃棄物の量は変わらない。豊かな自治体の補助金付きの低級リサイクル商品がリサイクルされる分,貧しい自治体の優良リサイクル商品は廃棄物になる。補助金のつく悪貨が良貨を駆逐することになった。
 そのうえ,豊かな自治体の処分場は公害対策が完備している。しかし,貧しい自治体では素掘りの処分場である。このことは,公害対策の完備した処分場へ捨てられるはずだった廃棄物が,素掘りの処分場へ捨てられることを意味している。
 リサイクル運動やリサイクル行政には,供給を調節する能力はない。その結果,古紙や古鉄などが過剰に回収されて,回収業者の倉庫にあふれてしまった。倉庫代がかさむので,回収業者は,ただ同然の価格でこれらのリサイクル商品をアジアの各国に輸出している。外国でリサイクルされるというわけである。しかし,その輸出はこれらの国々の資源回収のシステムを壊し,回収業者を廃業させることになる。「廃業の輸出」である。

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1-6 儲からないリサイクルはしてはならない

 昔の経済学が教えていたように,やはり,需要を超して供給したら資源ではない。需要の範囲で供給するのならば,すべてのリサイクルは回収業者にまかせればよい。そうすれば,昔の日本のように良質の商品が有償で回収されることになる。
 素人と行政は,リサイクル活動に一切手を出してはいけない。リサイクルの失敗が分かってすでに10年近くたった。しかし,リサイクル関係の経済学者は,その失敗を認めようとはせず,リサイクル推進を現在も叫んでいる。今後,失敗の歴史をどのくらい続けることになるのであろうか。
 リサイクルというのは,人間社会の中だけで資源の循環をしようとするのだが,それではうまくいかない。リサイクルは,回収業者や製造業者が儲かる場合だけすればよいのである。特に,リサイクル商品の方が高価になる場合,この回収と再生作業に石油や化学薬品などを大量に消費しているに違いないのである。

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問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.6.2009
最終更新日:Mar.12.2009