石油代替エネルギー供給技術の有効性

2-4 燃料電池

 自然エネルギー以外の新エネルギー技術として、なぜか注目されているのが、燃料電池である。燃料電池の仕組みは、大雑把に言って水の電気分解の逆反応によって電気を得るというものである。
 しかし、燃料電池の本質は、電力供給というよりは、蓄電装置、それも非常に高価で効率の低い蓄電装置でしかない。その非効率性は、政府機関が導入した本田やトヨタの燃料電池車が極めて高価なものである事からも容易に推測される。
 燃料電池の利点として、運用段階における排気ガスが水蒸気であり、『クリーン』であり、発電効率が高いことが挙げられる。しかしこれはまやかしである。まずクリーンというならば、電力供給システムで配電される電気は、運用段階で水さえ出さないのであるから、よりクリーンで扱いやすい。また、燃料電池の発電効率は、『燃料』としての水素に対する効率であって、工業的に燃料電池システムを成り立たせているのは石油による工業生産システムであって、燃料電池システムに投入される石油に対するエネルギー産出比で比較しなければ現実的な評価は得られないのである。
 燃料電池は、例えば、宇宙空間であるとか、極めて特殊な環境において、エネルギー効率以外の使用価値がある『かもしれない』が、通常の社会生活のおいて利用する必然性は存在しない。ここでは、燃料電池を一般的な電力供給システムとして運用する場合における、対石油消費におけるエネルギー効率の視点から考えることにする。

2-4-1 燃料電池システムの構成要素

a. 水素製造プラント

 燃料電池の『燃料』は水素である。水素は極微量ではあるが大気中に存在する。しかしながら、大気組成における割合は、5×10-5 %程度であり、極めて拡散したエントロピーの高い状態にある。大気中から水素を取得するためには膨大なエネルギー投入が必要であるため実質的に不可能である。
 そこで、工業的に水素を製造することが必要になる。水素製造は、水を原料とした電気分解法や、メタノールや炭化水素ガスを原料とした熱化学水素製造法等がある(脱炭化水素燃料を目的とするならば、炭化水素ガスの改質による水素製造は論理矛盾であり、後述するようにバイオマスを使ったメタノール製造は別の深刻な環境問題を引き起こす。)。燃料電池を一般的に運用するためには、巨大な水素製造プラントが必要になる。水素製造プラントの建設に投入されるエネルギーをw11とする。ここでは、電気分解法を前提に議論を進めることにする。水素製造プラントで使用される電力は、勿論最も効率的な火力発電による電力を使用するので、発電におけるエネルギー産出比はα=0.35、投入される石油エネルギーをw12とする。
 水の電気分解では、理論的には2個の電子で1水素分子が得られるはずであるが、工業的な生産における水素製造効率をβ=0.7~0.8程度と仮定する。
 水素は軽い気体であり、そのままの利用ではあまりにもエネルギー密度が低く、また体積が大きすぎるため、高圧容器に充填しなければならない。通常 200~300気圧で運用されているようである。この圧縮工程には莫大な仕事が必要であり、充填する水素の持つエネルギーに対する投入仕事の比率は、γ= 0.3~0.4程度と仮定する。

b. 燃料電池

 こうして得られた水素を『燃料』として『発電』を行う。現在の燃料電池システムが非常に高価であることから、燃料電池そのものの製造に対して、莫大なエネルギー w13 の投入が必要であることが推測される。高いといわれる燃料電池の水素燃料に対する発電効率であるが、せいぜいη=0.4~0.6程度と、それほど高いとは言えない。燃料電池の運用で、電熱併給(コジェネレーション)で効率を稼ぐといっていることからも発電段階の熱エントロピー gsの発生量は少なくない。ここでは、純粋に発電効率を算定することが目的なので、電熱併給は考慮しない。

c. インフラストラクチャー

 更に、家庭・事業所などにおける分散型の電力供給システムとして燃料電池システムを運用するためには、水素ステーションをはじめとする多くの社会的インフラの整備が必要になる。ここに投入されるエネルギーを w14 とする。

2-4-2 燃料電池システムの『発電』効率


 まず、水素製造プラントに投入される電力は次式で与えられる。

αw12

水素製造プラントにおける水素(気体水素に蓄えられる電気エネルギー)の産出は次式で与えられる。

αβw12

製造された水素を高圧容器に充填するために消費される仕事は次式で与えられる。

αβγw12

以上より、燃料電池に投入される水素燃料の持つ電気エネルギーは次式で与えられる。

αβw12 - αβγw12 = αβ(1-γ)w12

燃料電池から出力される電気エネルギーw0は次式で与えられる。

w0 = αβ(1-γ)w12 - Tgs = αβ(1-γ)ηw12

ここに、
 α = 0.35
 β = 0.7~0.8
 γ = 0.3~0.4
 η = 0.4~0.6

以上より、

∴ w0 = (0.056~0.118)w12

ここから、水素製造プラント建設に要する仕事w11、供給電力の生産に投入された仕事w12、燃料電池製造に投入される仕事w13、インフラ整備に投入される仕事w14を差し引くことによって、燃料電池からの実質の電気エネルギーの産出 w は以下の通りである。

w = (0.056~0.118)w12 - w11 - w12 - w13 - w14
= (-0.882~-0.944)w12 - w11 - w13 - w14 < 0

エネルギー産出比は、

w0/(w11 + w12 + w13 + w14) << (0.056~0.118)


2-4-2 燃料電池システムの効率改善の可能性

 再び、燃料電池からの産出の式を以下に示す。

w0 = αβ(1-γ)w12 - Tgs = αβ(1-γ)ηw12

 さて、燃料電池の発電効率の改善とは、上式における η の改善である。α、β、γについては、燃料電池に投入される圧縮水素製造プロセスに関する効率であり、大幅な改善はない。今後 η が如何に改善されようとも、総合的な効率の低さが劇的に改善される可能性は皆無である。燃料電池を『発電装置』として考えた発想そのものが誤りであった。

2-4-3 燃料電池システムの考察

a. 燃料電池システムは高価で低効率な蓄電装置

 荒っぽい見方をすれば、燃料電池システムとは、何らかの他の発電システムで産出された電力を、水素イオンに蓄電して、水素を分子レベルの蓄電装置として使うということである。その水素という蓄電装置から蓄電した電力を回収する装置が燃料電池である。
 さて、燃料電池は、電力として供給されたエネルギーを何段階もの迂回過程を経て、最終的に再び電気エネルギーとして出力する。供給される(あるいは蓄電する)電力は、前出の表現を使うと、0.35w12であり、これに対して燃料電池からの出力は w0 = (0.056~0.118)w12であり、蓄電量の1/3以下しか回収できない。燃料電池は、蓄電装置としても極めて低効率だと言わねばならない。

b. 燃料電池の使用価値

 通常の電力供給システムによって電力を供給できる環境にある住宅や事業所において、わざわざ蓄電装置、それも極めて低効率で高価な蓄電装置を使う必然性はない。

 では、燃料電池の使用価値とは何であろうか?考えられる一つの理由は、既に紹介した環境省の『風力発電~水素製造プラント~燃料電池システム構想』で示されるように、極めて不安定な自然エネルギー発電システムからの低品質の電力に対する蓄電装置としての利用である。この環境省のアイディアが妥当性を持つためには、第一条件として、自然エネルギー発電など、石油代替エネルギー供給システムが、文字通り石油消費なしにエネルギー供給システムとして成立しなければならない。しかし、既に検討してきたように、石油消費を前提としない限り、これらの『石油代替』エネルギー供給システムは存在できないのである。
 自然エネルギー発電の低品質の電力を燃料電池システムに投入可能であるということは、石油消費が行われていることを意味する。それならば、既に見てきたように、石油浪費的な発電システムである自然エネルギー発電システムに石油を投入せず、石油火力発電を用いるのが最も効率的である。石油火力発電による高品位の発電システムには蓄電装置は不要である。故に、分散型エネルギー供給システムとしての燃料電池利用は、全く無意味である。
 現在、トヨタ、本田はじめ自動車メーカー各社の行っている、燃料電池という蓄電装置を用いた電気自動車開発も全く同じである。石油が枯渇すれば、石油代替エネルギー供給システムは利用不能であるから、移動用動力源としての燃料電池蓄電システムも全く無駄である。燃料電池車とは、石油文明下の高価なおもちゃに過ぎない。

2-4-3 結論

 燃料電池システムは、高価=資源浪費的で、低効率な蓄電装置でしかない。このようなシステムを敢えて使わなければならない必然性のある状況は地球上に存在しない(宇宙空間については知らないが・・・)。



二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Apr.1,2004
最終更新日:Mar.29,2006