石油代替エネルギー供給技術の有効性

2-5 バイオマス

2-5-1 バイオマス利用の歴史的教訓

 バイオマスとは、生物起源の物質の総称である。動植物の体組織、それに動物の糞もバイオマスである。歴史的にみると、工業化以前の主要なエネルギー源は、ほとんど全てバイオマスであったと考えられる。日本の木炭は、非常に優れたバイオマス燃料である。
 非常に長い歴史を持つバイオマス燃料であるが、これは既に触れたように主として工業化以前に、炊飯や採光などに用いられていた。
 産業革命後、ヨーロッパにおいてバイオマスを工業用燃料として組織的に利用した一時期があった。産業革命後の鉄鋼生産において、木炭は優れた還元剤として、高品質の鋼を得るために大量に利用され、ヨーロッパの広大な森林を食い潰したことは周知の事実である。
 環境問題として、現在最も憂慮すべき問題の一つは、生態系の回復速度を超える森林消失であり、あるいは農地の消失である。つまり、バイオマスの再生産性の低下であり、絶対量の減少である。
 このような状況下において、エネルギー効率を云々する以前に、石油代替エネルギーとしてバイオマスあるいは、燃料用バイオマスを栽培するために農地を、組織的かつ大量に利用することは、まったく愚かな発想と言うほかない。

2-5-2 炭素循環

 地球上の炭素循環の概略を次の図に示す。



 上図に赤色で示されている通り、年間の炭化水素燃料(化石燃料)の燃焼による二酸化炭素に含まれる炭素量は約6Gt(=ギガトン= 1,000,000,000トン)程度といわれる。これに対して、バイオマスと考えられる地上生物に含まれる炭素量(ストック)は約550Gt、生物死骸に含まれる炭素量(フロー)は年間約60Gtである。つまり、平均的に炭素量として年間約60Gtの地上生物が新たに生まれ、それに見合うだけ死んでいることになる。
 この60Gtの炭素に対応する生体物質=バイオマスのうち、多くは食糧になり、また植物を育てるための土壌を形成することになる。もしここから工業的なエネルギーを得るために、炭素量にしてGtオーダーでバイオマスを利用することになれば、かつての木炭製鉄の例を引くまでもなく、生態系の物質循環は急速に衰えることは明らかである。
 生態系の物質循環に基づく定常性を維持しつつ、これを乱さない範囲で行われるバイオマスの燃料としての利用まで否定する必要はないであろうが、莫大な石油消費に支えられた現在のエネルギー供給システムの代替として、組織的かつ大規模な利用は直接的な環境破壊であり、行ってはならない。

 バイオマスの燃料としての利用において、バイオマスの燃焼によって発生する二酸化炭素は、再び光合成生物によって固定されるので、大気中二酸化炭素量が増えることはない、という説明がされることがあるが、これは正しくない。
 光合成によって生物体に固定された炭素は、一旦地表へ堆積して土壌を形成し、その後徐々に風化作用によって分解されて二酸化炭素として大気へ戻って行く。
 バイオマスを燃料として消費することは、生態系の物質循環を衰えさせるばかりでなく、バイオマスの燃焼を起源とする二酸化炭素は、地表に土壌として堆積することなく、速やかに大気中に放出されるため、堆積と風化のバランスを乱す。大気中への二酸化炭素の放出という意味では、石油の燃焼と同じである。

2-5-3 結論

 バイオマス利用の基本は、生態系の物質循環を豊かにするものでなくてはならない。バイオマスの燃料としての使用は、生態系の物質循環への適切な還元方法のない廃棄物の処理法として、最小限に止めるべきであり、石油代替を目的とした大規模かつ組織的な使用はしてはならない。


二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Apr.1,2004
最終更新日:Mar.29,2006