石油代替エネルギー供給技術の有効性
2-3-5 自然エネルギーの工業的利用と技術の限界

 これまで、太陽光発電、風力発電、そして海洋温度差発電について考えてきた。しかし、いずれの発電システムも自立することはおろか、石油火力発電に比較して石油節約的になる可能性も全くないことが示された。

 自然エネルギーに過大な期待を抱かせる一つの要因は、希少なエネルギー資源、つまり石油を消費せずに、どこにでも存在し、莫大な絶対量を持っているからであろう。しかし、それはエネルギー密度の低い、不安定なエネルギーだという性質を併せ持っている。
 自然エネルギーという、どこにでもあるが、拡散したエネルギーを、工業的に利用できる、高度なエネルギーにするためには、多くの仕事と資源を投入することが必要になる。更に、制御不能な時間的不安定性を持つ自然エネルギーを利用するためには巨大なバッファ装置が必要になる。多くの人々は、自然エネルギーを利用できるようにするために投入されるこれらの工業的エネルギー(=石油エネルギー)と鉱物資源を見落としている。

 自然エネルギーについて語るとき、『現状ではまだ高価だが、技術開発が進めばもっと廉くなり、効率も向上するはずだ』という反発を受けることがよくある。また、『技術の本質を語るためには、個別技術を詳細に検討してから判断すべきだ』ともよく言われる。果たしてそうであろうか?
 エネルギー技術において、利用するエネルギーと捕捉手段が決まれば、最大効率、つまり技術の上限は既に定まってしまう。工業的な技術の改良とは、その系内で発生するエントロピーを減らすことによって、如何に理想効率に近づけるということである。いかなる技術開発を行っても、理想効率を上回ることは有り得ないことを理解しなければならない。個別技術の評価に埋没することによって、全体像を見失っているのが現状である。

 ここでは、代表的な3つのタイプの発電システムについて検討した。一つは、太陽放射をそのまま利用する太陽光発電であり、二つ目は運動エネルギーを利用する風力発電である。運動エネルギーを利用するタイプには、その他に水の運動エネルギーを利用するタイプもあるが、その基本的な特徴は同じである。そして 3つ目は、常温熱エネルギーを利用するタイプである。以下、この3タイプの発電方式の限界についてまとめておく。

a. 太陽光発電

 太陽光発電の問題は、既に検討したように二つに要約される。一つは太陽光発電の低効率性である。ここで言う低効率には二つの意味がある。一つは、自然環境中における運用に当たって、入力としての太陽放射に対する発電効率が低いことであリ、もう一つは、その結果として石油利用効率が低いことである。そしてもう一つの問題は、制御不能な発電能力の不安定性である。後者は、技術では解決できない問題であるから、ここでは、発電効率について検討する。

 入力としての太陽放射sに対して理想状態の発電効率をηとする。太陽電池は太陽放射を全て捕捉出来るわけではない。表面による反射、あるいは表面に塵が積もったり、汚れたりすることによる透明度の低下によって太陽放射の捕捉効率は低下する。その低下率をαとする。太陽放射を受けた太陽電池パネルはかなりの高温になる。これは太陽放射の一部が熱化してエントロピーgsが生成されていることを示す。
 更に、太陽光発電の実際の運用のためには、巨大な『土地集約的な』太陽光発電装置が必要である。これを建設し、運転・点検・補修するために投入される仕事をw1とする。
 野外の運用における太陽光発電装置からの出力としての発電量w0は、

w0=η(1-α)s-Tgs

2-3-2の検討から、現在の太陽光発電のエネルギー産出比(対石油消費)は0.1程度であるから、

w0/w1=0.1 ∴w0=0.1w1

以上をまとめると、太陽光発電の正味の発電量wは以下の式で表される。

w = w0 - w1 =η(1-α)s-Tgs-w1= -0.9w1<0

つまり、太陽光発電は、エネルギーを生産するのではなく消費するシステムであるから、石油代替は不可能である。しかも、エネルギー産出比が0.35以下であれば、石油火力発電に対して、石油節約的でもないのである。
 さて、では将来的に技術開発で、どの程度の改善が可能であろうか。既に理想的な発電条件における発電効率は、η=0.2程度であり、発電効率の改善は頭打ちであるから、今後10%オーダーの改善は無いであろう。太陽放射の野外の運用における捕捉量の低下率αは、技術開発では克服することは難しい。また、システムの熱エントロピー発生量にしてもそれほどの改善は考えられない。もし、冷却システムを追加することになれば、gsの改善よりもw1の増加につながり、有効とは考えられない。w1に関しては、多少の改善はあるかもしれないが、劇的な変化は考えられない。
 以上を総合すると、技術開発によって、今回2-3-2で行った太陽光発電の評価を覆すような可能性は皆無である。更に、蓄電システムの問題を考慮すれば、太陽光発電システムの大規模導入は将来にわたって妥当性を持つことは有り得ない。

b. 風力発電

 風力発電の野外の運用における発電量は、2-3-3の表現を使うと、

w0 = Aρv13(1 - c2)/2g - Tgs

エネルギー産出比は、石油火力と同程度とすると、

w0/w1=0.35 ∴w0=0.35w1

風力発電の正味の発電量は、

w = w0 - w1 =Aρv13(1 - c2)/2g - Tgs- w1= -0.65w1<0

 風力発電も、エネルギーを消費するシステムであり、石油代替は不可能である。

 風力発電はシンプルな発電装置である。cは、風を受けるブレードの形状によって定まると考えられるが、今後画期的な改善は無い。風力発電においてエントロピーの発生する部分は、可動部の摩擦や振動であり、それほど多くは無い。つまり風力発電装置はほとんど完成された装置であり、今後の技術開発によって発電効率が顕著に改善することは無い。
 現実に、風力発電システムでは、風力発電装置そのものの発電効率の改善の研究は既に放棄されている。現在の主流は、見かけの発電出力の制御技術である。これは、風力発電には本来必要無い付帯設備の増加を意味するものであり、w1を増加させ、本質的な発電効率を更に悪化させることになる。
 風力発電の激しい出力変動を考慮すれば、将来的にも大規模導入は有り得ない。

c. 海洋温度差発電

 これについては既に2-3-4で検討したとおりである。熱機関の効率ないし、エントロピー増大則を無視して、常温熱から有効なエネルギーを得ようとした発想そのものが誤りである。よって、将来的にも使い物になることは有り得ない。



 自然エネルギーという拡散した時間的に不安定なエネルギーを工業技術によって捕捉する事によって、現行の石油によるエネルギー供給システムを代替し、あるいは石油利用効率を改善することは不可能である。全ての自然エネルギーによる石油代替エネルギー技術の開発は、石油資源の浪費である。


二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Apr.1,2004
最終更新日:Mar.29,2006