石油代替エネルギー供給技術の有効性
§3.結論

3-1 石油文明・工業生産システム

 石油文明とは、文字通り石油(石炭、天然ガスなどの炭化水素燃料も含む)によるエネルギー供給システムの能力による工業生産によって成り立っている。
 通常、工業生産技術とエネルギー供給システムは分離して考えられている。その結果としてエネルギー供給システムとしての石油の枯渇、ないし最近では二酸化炭素地球温暖化の原因とされる石油の使用に替わって、別のエネルギー供給システムによって工業生産システムを運用しようという発想が生まれた。
 しかし、工業生産システムの本質とは、あくまでも石油によって供給されるエネルギーによって運用することを前提に成り立っている、究極的には石油の利用技術の総体なのである。これを石油なしに運用することは論理矛盾であり、不可能である。

3-2 鉱業と工業

 これまで見てきたように、石油代替エネルギーと呼ばれる全ての技術は、石油によるエネルギー供給システムなしで自己再生産することが不可能である(対石油エネルギー産出比<1あるいはエネルギー収支<0)。それどころか、発電システムとして石油火力に対して石油節約的ですらない。石油文明下の技術としても、石油利用効率において既存の石油火力発電に劣る事は勿論、その他の鉱物資源を大量に浪費する技術なのである。
 石油がエネルギー資源として優れている理由の一つは、それが本質的には地下資源であり、石油が潜在的に有する優れた物性的な性質を獲得するために、何ら工業的なエネルギー投入が必要ない点である(より使いやすくするための精製工程は必要であるが)。我々は、ただその石油を採掘して運んでくることによって、その優れた資源の能力を利用することが出来るのである。石油は鉱業の産物なのである。
 これに対して、現在提案されている石油代替エネルギー技術は、全て工業の産物である。既に述べたように、あらゆる工業生産過程は石油エネルギーの消費によって成り立っている。つまり、石油エネルギーを消費して、産出されるものもエネルギーなのである。工業生産過程の生産効率は100%にはなり得ないのであるから、工業生産過程に投入されたエネルギー量に対して産出されたエネルギー量がこれを上回る可能性はほとんどないといってよい(例えば、火力発電や燃料電池システムにおける電気分解による水素製造)。また、エネルギーを得るまでの工業的な工程が複雑かつ多段階になるほどエネルギー損失は大きくなる。
 もし、仮に産出エネルギー量が投入エネルギー量を上回ることがあるのならば、それはエネルギーの原料資源の優れた潜在的な能力によるものである(例えば精製された石油燃料)。
 これに対して、自然エネルギーの利用は、石油と同じように、もともと自然エネルギーの持つ潜在能力を利用するシステムであるから、投入石油エネルギーに対してエネルギー産出が上回る可能性はある。しかし、既に検討してきたように、自然エネルギーはエネルギー密度があまりにも低く、あるいは時間的な不安定性を制御できないという困難さのため、これを工業技術によって捕捉し、安定運用するためには莫大な石油と鉱物資源の投入が必要となり、現実的には石油火力発電の石油利用効率を上回る可能性はない。

 工業生産システムを運用するためには、エネルギー産出比の高いエネルギー(鉱物)資源が必須であり、採取可能な炭化水素系の資源の枯渇によって、今日的な工業生産システムは終息する。全ての『石油代替』エネルギーシステムは、名前とは裏腹に、石油によるエネルギー供給システムの効率の悪いサブ・システムにすぎず、石油の枯渇とともに消滅する。石油文明下における石油代替エネルギー供給技術は、石油と資源の浪費であり、無意味である。

(2004/06/26)

【補足】

 今回の連載の途中で、何人かの閲覧者の方から疑問や意見を頂いた。幾つかについて簡単に触れておく。

Q1 石油代替エネルギーシステム運用に投入されるエネルギーを石油としているのはおかしいのではないか?

A1 既に述べてきたように、現在提案されている石油代替エネルギー供給システムの対石油消費のエネルギー産出比は1よりも小さい。これは、このシステムがエネルギーを消費していることを意味し、正味のエネルギー産出量はマイナスである。故に、石油代替エネルギー供給システムのエネルギー『産出』を他のいかなるプロセスに投入することも不可能である。

Q2 揚水発電による蓄電システムを利用した場合の太陽光発電の発電単価はどの程度になるか。

A2 水力発電の発電単価は、14円/kWh 程度とされている。揚水発電では、上下二つのダムが必要であり、更に揚水用のポンプ施設などの付帯設備が必要なので、少なくとも倍程度の発電単価になるであろう。ここでは、25円/kWh と仮定する。太陽光発電によって供給される電力による揚水効率を70%と仮定すると、揚水発電で1kWh を発電するために必要な水を汲み上げるために必要な電力量は、1/0.7=1.43(kWh)となり、その価格は 70×1.43=100.1円となる。合計すると、太陽光発電~揚水発電システムによる供給電力の単価は、少なくとも 125円/kWh 程度であろう。

Q3 燃料電池の使用する水素製造において、光触媒を使った光化学反応による水素製造が実用化すれば、燃料電池システムの利用の可能性があるのではないか?

A3 これは、電力供給において太陽電池を用いるのと基本的に同じ発想である。単に水を日向に置いておくだけでは水素が発生することはない。太陽光の持つエネルギーを利用して光化学反応で水の分解を行う装置が必要になる。太陽光の持つエネルギーを利用する点で、既に失敗している太陽熱発電や太陽光発電と同様に、太陽光エネルギーが工業的な利用を前提にする限り、あまりにもエネルギー密度が低いという問題を克服することは出来ない。既にこの段階で成功はおぼつかないと考えるべきであろう。
 太陽光発電では太陽光の電気への変換効率は理想状態で20%程度であるが、果たして光触媒を用いた光化学反応でどれほどの太陽光エネルギーが有効に利用されるであろうか?仮に40%の効率を達成したとしても、実際の野外での運用において、光触媒を用いた土地集約的な水素製造プラントの面積は広大なものになる。
 更に燃料電池システムの運用のためには水素の圧縮工程が必要になり、そこで膨大なエネルギー損失を生む。更に、燃料電池システムそのものが高価であることからも分かるように、燃料電池の製造に莫大なエネルギーと希少資源を含む鉱物資源の投入が必要になる。総合的な効率が太陽光発電を上回るのは困難だと考える。石油の代替になる可能性はない。



二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Apr.1,2004
最終更新日:Mar.29,2006