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第十一節 社会教育・通俗教育

 維新前、本村ニ行ハレタル社会教育トモ見ルベキモノハ、左ノ数種ニシテ、別ニ官ニ於テ世話指導ノ任ニ当リタルニアラズ。農閑季節ニ於テ人民適宜之ヲ開催シ、一ノ娯楽トナシタリ。之ヲ一面ヨリ見ルトキハ、一種ノ社会教育ト見ルヲ得ンカ。

 一、デレロン祭文
 當時ハ、盆・正月ノ頃ニ至レバ、村廻リノ「デレロン祭文」語リハ、各戸ヲ見舞ヒ祝ヒ旁々廻リ来ルヲ例トシタルモノニテ、之レヲ依頼シ泊宿セシメ、近隣相集リテ其ノ物語ヲ聞クヲ楽シミタリ。其ノ語リモノハ種々アレドモ、當時ヨリ一般ニ知ラレタルモノハ、
 五郎正宗 左甚五郎 鏡山仇討 尾子十勇士 宮本武蔵 水戸黄門 等ナリ

 二、人形芝居
 普通ノ村芝居ハ、本村ニハ之ヲ演ズルモノナシ。又、行ハレザリシガ如シ。之レ一ニハ費用ノ多ク要スルト、又、一関町ニ於ケル演芸ヲ見ル便アリシニ依ルナルベシ。
 人形芝居ハ、設備ノ簡単ナルト費用ノ少キトノ関係ヨリ、一般ニ行レタルガ如シ。其ノ演ズル所ノ演題ノ普通ナルモノニハ、
 阿波ノ徳島十郎兵衛 安達ヶ原 白井権八 源平盛衰記 朝顔日記 鬼神お松 播州皿屋敷等ナリ

 三、歌 念 佛 

 歌念佛ハ、社会教育ト見ルハ少シク不穏当ノ嫌アレドモ、維新前ニ於テハヨク行ハレタルガ如ク、其ノ唱ヒタルモノヲ見ルニ、勧善懲悪因果應報ヲ巧ニ念佛歌ニ作リテ唱ヒタルヲ見レバ、一種ノ社会教育トモ見ルコトヲ得ンカ。

 四、稗史小説
 稗史小説ハ、當時、印刷術ノ容易ナラズ。從テ、出版ノ少キ書籍ト云ヘバ、価格ノ高価ニシテ容易ニ得ラレザル時ニ於テ、写本等ニ依リヨク読マレタルヲ見ルハ、如何ニ其ノ人心ノ嗜好ニ投ジ歓迎セラレタルカヲ察スルニ足ル。其ノ活版術開ケフリ假名ノ書籍ノ出ズルニ至リテハ、盛ニ歓迎セラレ、農閑ヲ得バ互ニ相集リテ之ヲ読ミ之ヲ聞キタルモノナリ。其ノ内容、今日ノ小説ノ如ク不健全ナル思想ノ入レルナシ。淫猥ノ風無ク、勧善懲悪ヲ主トシ作成セラレタル風アルハ、其ノ文章及敍拠述等ノ、到底今日ノモノニ及ブベクモアラザレドモ、社会教育上、甚大ナル好影響ヲ与エタルガ如シ。
 読者又、今日ノ如ク淫靡ナルモノヲ好マズ、武勇伝仇討等ノ如キ勇壮ナルモノ及無邪気ナル滑稽物ヲ好ミタルハ慕ハシ。其ノ一般嗜好ニ歓迎セラレタルモノハ、
  一、武勇伝類及義侠伝等
     例ヘバ 宮本武蔵 岩見重太郎 絵本源平記 絵本太閤記 松前屋五郎兵衛
  二、仇討類ハ
     例ヘバ 忠臣蔵 白石仇討
  三、滑稽物
     道中膝栗毛
  四、ソノ他

 五、肝入ノ訓話
 肝入ハ、當時、特ニ村民ヲ集メテ五倫五常ノ道ヲ説キ聞カスベクナリ居リシガ如クナレドモ、其ノ方法ハ、本村等ニアリテハ、余リヨク行ハレ居ラザリシガ如シ。然レドモ、毎年二回位ハ、村民ヲ自宅又ハ最寄リニ集メテ訓戒ヲ施シタルカノ形跡アリ。當時ハ、肝入ノ権力、実ニ素晴ラシキモノニテ、到底今日ノ村長ノ及ブ所ニアラズ。故ニ一度召集ヲ発スレバ、大半集合シ来リシハ、美風ト云フベシ。
 サレバ、其ノ肝入ノ人格如何ニヨリ、講義ノ巧拙ニヨリテハ、其ノ効果モ又從ッテ大ナルモノアリシナリ。當時、講釋ノ一例ヲ示スタメ、或ル肝入ノ手控ヘトシタルモノヲ掲ゲ参考ニ供スベシ。

 御誓文御定三箇條之和解
一、人たるもの五倫の道を正しくすべき事
    此の御趣意は、
  すべて人に生れたる者は貴きも賤しきも五倫の道とて天地の開け初めしより五ツの本筋の道自然そなわりて有り。是をよく守を正くぞと云ひをくための条々なり。
一、親子の中には天地に備りたるしたしみのあるものなり。常に此のしたしみをうしなはぬやうに子は親に孝行を盡し親は子をいつくしむべきなり、とあり。
一、主人と家来との間には自然に程よく義理筋合のあるものなり。
  その筋合を取違はぬやうに家来は主人に忠義を盡し、主人は家来になさけを懸け無理非道のなきよういたすべきなり、という。
一、夫婦の中には親しみ和ぶ中にもおのづとわかぢのあるべきことなり。
  いかにといえば夫婦となれば情欲におぼれ親兄弟よりも正しくなりて親兄弟にいはれぬ事も妻にはもらす事もあればしたしみになれで、遂に一家の内に住べき物おさまらぬように成者あり是をよくよく心に懸けてわかじの不失様にすべしとあり。
一、先に生まれたる兄を長と云後に生まれたる弟を幼と云其の長幼の後先のついでを失わずに長は弟をよくよく取回し弟はよくしたしみて兄に從ひ互になかよくすべしとあり。
一、鰥寡孤獨廃疾の者を憫むべきこと
    この御趣意は
  老年にて妻のなきものを鰥と云、老年にて夫のなきものを寡と云、幼くして父母のなきものを孤と云年寄りて子供のなきものを獨と云、又病気にてからだの役にたたぬ様になりたるもの足ない、手折れ、或はめくら、かたわの類すべて体の不都合なるものを廃疾と云、此の五つの者は天下の困窮者にて父母、妻子、誰へも世話を頼る所もなし。誠にもこき物なれば、一つ心を深く不便をくわへ物をあたえる様にすべしとあり。
一、人を殺し家を焼き財宝を盗む等の悪行あるまじき事
    この御趣意は
  人をむざと殺したり、人の家に火を付けたり又は人家に押入りて金銀財宝を盗取る様なあしき業はいたしまじき。只々それぞれの本業励みて善事を行うべしとあり。
 右條々、戸毎末々迄、遵奉候様説諭せしむべきもの也。此ノ外、藩ヨリ新ニ御布令ノ出ヅル時ハ戸毎人民ヲ集メテ講釈シ聞カセシモノナリ。左ニ仙臺藩制条目ヲ掲ゲ、其ノ一例ヲ示スベシ。


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底本:「復刻 眞瀧村誌」
 2003(平成15)年6月10日発行
発行者 眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表 蜂谷艸平
2004年3月10日作成