明治三十八年ノ大凶作
本年ハ、春以来、気候順ヲ失シ寒冷甚シク、霖雨降リ続キテ晴天少ナク、殊ニ八月出穂期ニ於テハ、殆ント全月降雨ニテ稲花ノ節ヲ失シタリ。九月ニ入リ漸ク天気恢復ノ兆アリ。シカレドモ時季己ニ遅ク、充分ニ結實スルヲ得ズ。十月ニ至リ降霜早ク至リシヲ以テ此ニ全ク生育充実ヲ止ムルニ至レリ。
此ニ於テ萬一ヲ祈リシ農民モ望ノ綱モ切レ、収穫漸ク平年作ノ二分五厘トイフ實ニ未曾有ノ大凶作ヲ見ルニ至レリ。先ニハ三十五年ノ凶作アリ、昨三十七年二月以来、日露ノ大戦開始セラルル等ノ結果、在禾幾分ノ貯ヘアル農家モ、今ハ既ニ倉庫空乏トナリ、加フルニ物価騰貴・金融不通・土地下落シ、農民ノ困難実ニ言語筆舌ニ盡シ難シ。政府ハ東北地方凶作地ノ実地ヲ調査シ、三十八年度一ヶ年分ノ地租ヲ免除セラレタリ。其ノ本村免租地反別ハ、
一、田反別 壱百弐拾八町五反八畝五歩ナリトス。又、所得税モ同時ニ免除セラル。而シテ既ニ納付シタル金額ハ返済セラレタリ。其ノ金額左ノ如シ。
一、地租金 金壱千弐百五拾四円七銭
一、所得税 金六拾九円五拾四銭
稲作及天候ノ状況
今當年ニ於ケル岩手縣農事試験場ニ於ケル報告ヲ採摘シテ掲グレバ、左ノ如シ。
大暑作況報告ノ二
水稲収況
豊凶孝照試験ノ稲ハ、五月二日ニ晩種シ、六月一七日ニ挿秧セリ。而シテ播種後常ニ天候宜シキヲ得タルヲ以テ、苗ノ生育良好トナリ、著シク伸長セリ。移植後ハ気候前述ノ如クニシテ日照時尠カリシヲ以テ、伸長ノ割合ニ分蘖尠カリシモ、概シテ良好ナリ。
（中略）
抑モ大暑ヨリ花期ニ至ル間、特ニ八月ハ稲ノ生育ニ最モ重大ナル関係ヲ有スルモノニシテ、稲作ノ豊凶ハ全ク此ノ時期ニ於ケル気候ノ良否如何ニヨリテ決セラルルト云フモ敢テ過言ニアラザルナリ。然ルニ本年ハ、此ノ期間ニ於テ気温ノ低減ト云ヒ、快時日数及日照時ノ減少トイウヒ、雲雨量ト雲雨日数トノ増加ト云ヒ、何レモ稲作上最モ不良ノ現象ヲ示シ、大暑ニ至ルマデ或ハ楽観ノ念ヲ起シ、或ハ一縷ノ望ヲ抱持セシモノヲシテ全ク悲観絶望ノ淵ニ沈淪セシムルニ至ラシメタリ。今、左ニ掲グル花期前後ニ於ケル気候ノ状態及出穂期日ヲ熟覧セバ、思半ニ過グルモノアラン。
| 雨 | 曇 | 晴 | 平 均 温 度 |
一 五 日 |
一 四 日 |
一 三 日 |
一 二 日 |
一 一 日 |
一 〇 日 |
九 日 |
八 日 |
七 日 |
六 日 |
五 日 |
四 日 |
三 日 |
二 日 |
九 月 一 日 |
三 一 日 |
三 〇 日 |
二 九 日 |
二 八 日 |
二 七 日 |
二 六 日 |
二 五 日 |
二 四 日 |
二 三 日 |
二 二 日 |
二 一 日 |
二 〇 日 |
一 九 日 |
一 八 日 |
一 七 日 |
一 六 日 |
一 五 日 |
一 四 日 |
一 三 日 |
一 二 日 |
一 一 日 |
一 〇 日 |
九 日 |
八 月 八 日 |
日 時 |
|
| 一 八 |
六 |
一 五 |
二 四 ・ 八 |
二 三 ・ 〇 |
二 四 ・ 二 |
二 六 ・ 二 |
二 六 ・ 二 |
二 七 ・ 〇 |
二 七 ・ 一 |
二 七 ・ 七 |
二 七 ・ 七 |
二 七 ・ 〇 |
二 六 ・ 六 |
二 七 ・ 五 |
二 六 ・ 五 |
二 五 ・ 八 |
二 五 ・ 〇 |
二 五 ・ 四 |
二 五 ・ 一 |
二 六 ・ 〇 |
二 三 ・ 七 |
二 三 ・ 五 |
二 四 ・ 七 |
二 七 ・ 五 |
二 六 ・ 九 |
二 八 ・ 四 |
二 七 ・ 九 |
二 六 ・ 六 |
二 五 ・ 九 |
二 三 ・ 五 |
二 三 ・ 三 |
二 三 ・ 四 |
二 一 ・ 六 |
二 一 ・ 四 |
二 四 ・ 〇 |
二 三 ・ 〇 |
二 〇 ・ 〇 |
二 〇 ・ 〇 |
二 一 ・ 一 |
二 四 ・ 三 |
二 七 ・ 〇 |
二 六 ・ 二 |
温 度 |
明 治 三 五 年 |
| ● | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ○ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ◎ | ● | ● | ● | ● | ◎ | ◎ | ○ | ● | ○ | 天 気 |
|||||
| 五 |
一 七 |
一 七 |
二 三 ・ 七 |
二 〇 ・ 八 |
二 二 ・ 七 |
二 二 ・ 七 |
一 九 ・ 四 |
二 〇 ・ 二 |
二 五 ・ 二 |
二 六 ・ 六 |
二 四 ・ 九 |
二 四 ・ 五 |
二 七 ・ 五 |
二 七 ・ 八 |
二 九 ・ 一 |
二 七 ・ 六 |
二 七 ・ 九 |
二 四 ・ 九 |
二 六 ・ 七 |
二 四 ・ 九 |
二 三 ・ 二 |
二 四 ・ 八 |
二 四 ・ 九 |
二 四 ・ 六 |
二 一 ・ 六 |
二 七 ・ 〇 |
一 六 ・ 四 |
二 二 ・ 八 |
二 〇 ・ 四 |
一 九 ・ 七 |
一 九 ・ 三 |
二 一 ・ 一 |
二 三 ・ 二 |
二 四 ・ 八 |
二 三 ・ 七 |
二 一 ・ 六 |
二 六 ・ 七 |
二 四 ・ 〇 |
二 七 ・ 六 |
二 五 ・ 一 |
二 五 ・ 八 |
二 四 ・ 八 |
温 度 |
明 治 三 六 年 |
| ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ● | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ● | ○ | ● | ○ | ○ | ○ | ● | ● | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | 天 気 |
|||||
| 二 |
一 一 |
二 六 |
二 四 ・ 五 |
二 〇 ・ 九 |
二 三 ・ 五 |
二 一 ・ 五 |
二 〇 ・ 一 |
二 〇 ・ 一 |
二 一 ・ 七 |
二 〇 ・ 四 |
二 一 ・ 五 |
二 四 ・ 一 |
二 〇 ・ 三 |
一 九 ・ 二 |
一 九 ・ 九 |
二 二 ・ 〇 |
二 四 ・ 八 |
二 九 ・ 二 |
二 一 ・ 二 |
二 一 ・ 三 |
二 七 ・ 六 |
二 五 ・ 九 |
二 三 ・ 三 |
二 五 ・ 五 |
二 七 ・ 四 |
二 六 ・ 九 |
二 九 ・ 六 |
二 七 ・ 二 |
二 八 ・ 三 |
二 九 ・ 二 |
二 九 ・ 一 |
二 六 ・ 六 |
二 四 ・ 一 |
二 五 ・ 八 |
二 七 ・ 三 |
二 五 ・ 七 |
二 六 ・ 三 |
二 七 ・ 二 |
二 九 ・ 四 |
二 八 ・ 七 |
二 八 ・ 四 |
二 八 ・ 〇 |
温 度 |
明 治 三 七 年 |
| ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ○ | ● | ◎ | ◎ | ● | ○ | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 天 気 |
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| 一 〇 |
九 |
二 〇 |
二 一 ・ 五 |
一 九 ・ 五 |
二 二 ・ 二 |
二 二 ・ 九 |
二 四 ・ 二 |
二 四 ・ 二 |
二 三 ・ 八 |
二 一 ・ 七 |
二 三 ・ 八 |
二 三 ・ 七 |
二 二 ・ 七 |
二 五 ・ 八 |
二 五 ・ 九 |
二 三 ・ 五 |
二 〇 ・ 〇 |
二 〇 ・ 四 |
二 三 ・ 四 |
一 六 ・ 四 |
一 九 ・ 〇 |
一 八 ・ 〇 |
二 五 ・ 九 |
一 七 ・ 六 |
一 九 ・ 二 |
二 一 ・ 五 |
二 二 ・ 一 |
二 二 ・ 一 |
一 七 ・ 四 |
一 八 ・ 三 |
一 八 ・ 三 |
二 〇 ・ 五 |
二 四 ・ 〇 |
二 三 ・ 一 |
二 三 ・ 一 |
二 三 ・ 八 |
一 八 ・ 二 |
二 〇 ・ 四 |
二 〇 ・ 二 |
一 七 ・ 九 |
二 二 ・ 三 |
二 三 ・ 八 |
温 度 |
明 治 三 八 年 |
| ○ | ○ | ● | ● | ● | ◎ | ◎ | ◎ | ● | ● | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ● | ◎ | ◎ | ○ | ● | ● | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ● | ● | ○ | 天 気 |
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出穂期日
| 晩 稲 |
中 稲 |
早 稲 |
|
| 九 月 一 日 |
八 月 二 四 日 |
八 月 一 五 日 |
明 治 三 五 年 |
| 八 月 三 〇 日 |
八 月 二 五 日 |
八 月 二 〇 日 |
明 治 三 六 年 |
| 八 月 二 三 ・ 四 日 |
八 月 一 六 日 |
八 月 一 三 日 |
明 治 三 七 年 |
| 九 月 九 日 |
八 月 三 〇 日 |
八 月 一 六 日 |
明 治 三 八 年 |
前表ニヨレバ、本年ニ於ケル稲ノ出穂期ハ、例年ニ比シテ啻ニ後レタルノミナラズ、早中晩相互ノ出穂期日ハ遙カニ相隔タリテ、早稲ト中稲トハ十三日間、中稲ト晩稲トハ十日間ノ間隔ヲ生ジタリ。思フニ、気候順ヲ得バ、稲ノ開花ニ要スル總テノ要素ハ既ニ備ハリアルヲ以テ、花期一度耒ラバ速カニ且容易ニ抽穂開花ノ作用ヲ遂行シ得ベク、從ッテ早中晩各種ノ出穂期モ進ミ、且、其出穂期ノ間隔モ短縮セラルベシト雖モ、気候不順ノ年ニ於テハ之レニ反スル現象ヲ呈スルコト論ヲ待タザルナリ。本年ニ於テ、如上ノ現象ヲ示セシ所以ノモノモ、全ク此ノ理ニ帰スベシ。尚、左ニ當年二百十日ニ報告セル気象状態ヲ掲グベシ。
二百十日ニ於ケル気象状況
本年大暑当日ヨリ二百十日前日ニ至ル間ノ気候ハ、甚ダ不順ニシテ、曇雨天連続シ日照時尠ク、從ッテ温度モ著シク低下セリ。此ノ期間ニ於ケル平均温度ハ二十度九分ニシテ、最高平均二十三度八分、最低平均十六度ナリトス。今、此レヲ前年ニ比スレバ、気温ニ於テ五度、最高ニ於テ五度五分、最低ニ於テ四度共ニ低ク、前三ヶ年平均ニ比スルモ気温三度七分、最高二度六分、最低二度二分、共ニ何レモ低ク、又雨量ハ四百五十二粍三ニシテ昨年ニ比シ三百三十粍八、前三ヶ年ニ比シ二百八十八粍三多ク、降雨日数ハ二十四日ニシテ前年ニ比シ十四日、前三ヶ年ニ比シ九日、共ニ多カリキ。
前頁 次頁 目次 歴史 須川土地改良区 須川ホーム
底本：「復刻 眞瀧村誌」
2003（平成15）年6月10日発行
発行者 眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表 蜂谷艸平
2004年3月10日作成