環境問題と公共事業
 3-4 川と海を巡る物質循環

 これまでの議論の中でも、水の物質循環機能について触れてきましたが、ここでもう一度まとめておきたいと思います。

 地球上の水の大きな循環は、まず、降水(降雨あるいは降雪)によって地表に水が供給され、高所への降水は地表水あるいは地下水となり、最終的には地球重力によって海へと流れ下ります。一部は海へ流下する途中で植物の蒸散や地表面からの蒸発という形で再び大気中に戻っていきます。河川水は海に到達して更に海洋からの蒸発によって大気中へ戻っていきます。
 水の蒸散あるいは蒸発は、地球上(必ずしも地表だけではない)で行われるあらゆる無機的有機的変化によって増大したエントロピー(=廃熱)を潜熱として持ち去り、地球系外へ廃棄する重要な機能を持っています。この点については、環境問題総論の槌田氏のレポートに詳しいのでここではこれ以上触れません。ここでは、主に地球上の物質循環の担い手としての地表水の機能を中心に総括しておきます。

 高所への降水は、地表を流れ下る間に、地上の生態系の生命活動に寄与しながら、あるものは地下水となりまたあるものは河川水となって海へと流れ下ります。その間に、地表の養分や鉱物ををその中に溶かし込み河川へと注ぎ込みます。適度に養分を含む河川水は水棲生物を育みます。水棲生物の一部は鳥や獣(勿論、人も含まれます)の餌となり捕食されます。ここに、河川と流域との間に捕食という形で物質の還流が起こり循環が形成されます。鳥や獣の排泄物は再び陸棲植物に吸収され流域の生態系を復元し豊かなものにします。
 また、河川は中流域から下流域の河床勾配の緩やかな場所に上流域で侵食した腐葉などの有機質や鉱物質に富んだ土砂を堆積し沖積平野を形作ります。沖積平野は肥沃な土地となって陸棲植物を育み、また農地として活用されます。ここでもまた河川水に含まれる養分が流域へと還流することによって物質循環が形成されます。
 更に河川水は海まで到達し、沿岸部に適度な栄養分と土砂を供給します。その結果沿岸部の魚類をはじめとする生態系が豊かになります。魚を中心とする水棲生物は、ここでも鳥や獣の餌になり、捕食を通して再び海から陸への物質の還流が起こります。
 無機的な液体としての水は、地球重力によって陸上の物質を溶かし込みながら海へ一方的に物質を輸送するという基本的な性質を持ちます。海に流れ込んだ栄養分もまた重力によって海の深みへ物質を輸送することになります。地球上に動物を含む生態系がなかったならば、やがてすべての栄養分は海洋の深みへ流れ込み、陸上は岩石の露出した不毛の土地へと遷移していくことになります。
 しかし、海にも水の流れがあり、物質の大規模な循環が存在します。地球の自転運動による海流と海水の密度の差によって深海の養分に富んだ海水が海面に上昇してきます。この海水の湧昇によって海底に沈んだ養分は再び地球の生態系の物質循環に戻ってきます。湧昇の起こる海域は魚類をはじめとする豊かな生態系を育むことになります。
 これまで見てきたように、地上の生態系を豊かにするためには、たんに無機的な水の循環だけが重要なのではなく、水をめぐる生態系、特に水が重力作用によって物質を下へ向かって輸送するのとは反対に重力に抗して水の中から物質を地上へと運び上げる動物の存在が決定的に重要なことが分かります。
 これまで水中の養分を陸上へ運び上げる動物として鳥と獣の存在を強調してきました。しかしそれだけではありません。最近の研究から、川と海を還流する生態を持つサケ・マス科等の遡河性回遊魚の海から陸への物質運搬機能が無視できないほど大きいものだということが明らかになりつつあることを付言しておきます。



二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Feb.9,2009
最終更新日:Mar.13,2009